豊後高田

　拓哉は会社に休職願いをだした。
詳しい事情を話すかどうか迷ったが、伏せていおくことにした。
親の介護のためだと適当な理由をつけて。
会社に属することで受ける恩恵を受けられなくなって
しまうと思ったからだ。

　生活に困っているわけではなかったが、死を目前にして何かしらの
帰属意識が欲しかった。

　「寄る辺」が欲しかったのだと思う。例えこんな会社でも・・・。

　それから拓哉は、大分の実家にいる眞鍋淳子に手紙を書いた。

　普段、パソコンやケータイのメールだけしかしていないのだが淳子との
やり取りは決まって手書きの手紙だった。

　淳子がメールを好まなかったことも理由だが、なにより拓哉は
彼女がしたためる手紙の文字が好きだったからでもある。

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　淳姉、お久しぶり。元気ですか？
　こちらは、まぁなんとかってところ。おねえにちょっとお願いがあって
　また手紙なんぞ書いてみた。
　今度そっちへ訊ねて行きたいんだけど、いつごろがいいかな。
　できたら早い方がありがたい。
　
　お願い！一生の頼み！！
　いつものオレのわがままだと思って、よろしくでーす。
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　できるだけ明るく、そしておどけて見せた。今彼女に真実を伝えても
無用な心配をあたえるだけだ。それでは何にもなりはしない。


　淳子は大学を卒業してまもなく今の家庭をもった。
それは決して平坦な日々ではなかったと聞いている。

　拓哉と淳子は高校を卒業したときから手紙のやりとりをしていて、
結婚する話もその中で聞かされた。

　高校時代、年上の淳子に惹かれて以来いつまでも一緒にいたいと
何度となく思い、卒業のとき思いのたけを伝えたこともあったけれど
その時拓哉の願いは成就することはなかった。

　けれどその後どちらともなく手紙を交わし、日常のとりとめのない話から
淳子の悩みの相談にのったり、拓哉自身の愚痴を聞いてもらったりもした。

　淳子が結婚して一度だけ会ったことがあるが、お互い遠慮もありそれきり
会わずにいたのに・・・

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拓くん、元気そうで。

なになに？突然「会いたい。」なんて。
あなたの行動力にはいつも感心させられるけれど、別居してると言っても
一応、あたしも「人妻」なんだけどなぁ？

やだよ？不倫の果てに・・・・なぁんてね。

そうだな。7月の頭くらいだったら時間取れそうかも。

その頃いらっしゃい。何にもないところだけどね。
今のあたしには、それがいいのかもしれません。
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7月頭。ターゲットの日程をきめて再び淳子に手紙を書く。
淳子との往復書簡。今の拓哉にはそれだけがこの世で自分が存在している
唯一の証でもあった。