芙美子は、ヒルトンの高層階に部屋をリザーブしていた。

「高い場所から夜景を眺めたかってん。」

　先ほどまで速いペースで酒を飲んでしまったせいか、私の思考はほとんど停止していた。
　芙美子の言葉に相づちを打つわけでなく、窓際の椅子にうずもれたまま大阪の夜の光を
ぼんやりと眺めていた。

「大人の夜の時間やわ。」

　無邪気にはしゃぎながら芙美子は私の右頬にキスをしてきた。
　私はそのまま芙美子を抱き寄せようとしたが、彼女はするりと私の腕をすり抜け、

「シャワー浴びてくるよって。」

　そう言ってバスルームへ消えていった。

　私はほとんど酩酊していた。ひとり部屋の中で過ごしていると、
いろいろと雑多な思いが頭の中をよぎっては消えていった。

　私はいったいここで何をしているのだろう、だとか、
今夜は久しぶりに上質な時間の過ごし方をしているな、だとか。

　ベッドに移って体を横たえると、とたんに強烈な睡魔に襲われて、
眠りの奈落へ引き込まれそうになった。
　その時、芙美子がバスローブだけ纏って私のすぐ横に体を寄せてきた。

「もうおねむになりはったん？」

　子供でもあやすように、それでいてなまめかしい仕草で私を挑発してきた。
華奢で長い芙美子の指が私の頬に触れた。
　私はその手を握り返し、美しく伸びた指に唇を這わせてみた。

「あ・・・」

　芙美子は少しだけ吐息を漏らしたが、すぐにまた、私の方へ視線を投げた。

「おいたはあきまへんえ。」

「君の瞳には逆らえない。」

　芙美子の瞳はいっそう潤み、上目遣いの視線は私を捉え、決して離そうとしなかった。

「うちの中へ、来て。」

　芙美子が纏っているバスローブを脱ぎすてると、均整のとれた美しい姿態が現れた。
　私は芙美子を抱き寄せ、彼女の乳房を吸った。

「うちをはなさんといて・・・」

　芙美子も私の頭を抱え込むようにしがみついてきた。
　お互いに何度も唇を求め合い、舌をからめそして永く永く口づけをした。

　芙美子の左手が自らの中へ私を導き、その時初めて二人は繋がり合った。

「君の中は温かい。」

「うちの体の中を三邑はんでいっぱいにしておくれやす。」

　私は、生温かく柔らかな襞で満たされた芙美子の体のなかで、
包み込まれるような安堵感と充足感、そして生命の源から得られる精気のようなものを
一身に感じていた。

　彼女の存在はここ数年の間に傷ついた心を全て癒してくれるようであった。
それは魅惑的で、麻薬のように私を虜にしてしまいそうな魔力も秘めているに違いなかった。