私は、現場検証に当たっていた所轄の警官と一緒に同行することになった。
　胸が激しく高鳴る。脂汗が滲んでくる。

「三邑さん、やったかな。だいじょうぶでっか。顔色わるいで。」

「あ、いや大丈夫です。走ったので息が上がってしまって。」

　それは嘘だ。私は認めたくはなかったのだ。富貴子がこの世にいなくなったことを。


　ほどなくして私たちは検証現場に到着した。

　私は少し足が竦んだ。見たくはない。変わり果てた富貴子の姿を。
　けれどこの目で確かめてやらなければ。この世で最後の姿を、私が看取ってやらなければ。


「彼女は、日向・・・ふ、芙美子さんです。私の知り合いの・・・。」

　私はそれだけ言うのが精一杯だった。

　涙が溢れた。視界が滲んでよくみえなくなっていた。
　昨夜まで暖かな血が通っていた柔らかな肌は生気を失い、ひんやりと冷たくなってしまった。

　滑落した際に受けたのであろう。傷口から血が浮かび、それがいっそう私に痛々しさを与えた。

「事情を伺いましょか。署まで同行してくらはりますか。」

「その前に、電話を一本させてください。」

　警官は顔をしかめたが、しぶしぶ承諾し、曖昧に頷いた。

　私は城戸に電話をいれ、今から所轄の警察に行くとだけ告げた。

　城戸は一言だけ私に忠告をくれた。

「俺がおまえを引き取りに行ってやる。迎えに行くまで余計なことを一切しゃべるな。」

　もとより私には、落ち着いて何かをしゃべるだけの冷静さは今は無いように思われた。
ただただ、富貴子がこの世からいなくなってしまったことに、打ちのめされていたのだった。

　ふいに、カリヨンタワーの音が渓谷に響いたような気がした。
それは、幸せの薄かった双子の姉妹の、魂を慰める弔鐘のように私には聞こえたのだった。