あなたは、人生の最期に会いたい人はいますか？
　最期に佇んで居たい場所がありますか？

　　　　　　　　　　　　　序

　精密検査の結果通知がきた。今日その「告知」を受けにきたのだ。

「先生、正直なところを教えてください。覚悟は決めてきましたから。」

　拓哉は、内科の医師に強く迫った。自分には残された時間がほとんどない。
自らの体調不良がそう教えてくれる。医師は、表情こそ変えなかったが
目の奥に苦渋が浮かぶ。医師としては失格だな。患者を不安にさせる男だ。
妙な皮肉だけが頭をよぎる。

「大変申し上げにくい・・・。長くて一年あるかないか。」

　頭の中が真っ白になったかと思うと途端にぐるぐると思いが駆け巡った。

「どうも。ありがとうございました。」

　もとよりここで入院して、死を待つつもりなど毛頭ない。
残った時間でやりたいこと、やらなければならないことが山ほどある。
　しかし、投薬を受けなければ、病魔の進行は急激に進む。
　
　病院から戻るとすぐに友人の医者に連絡をとった。
　診断書をもとに彼を拝み倒した。
　
「もう先は長くないんだ。最後の頼みと思って訊いてくれ。」　
　　
　そして彼から定期的な診察と投薬を受けられる約束を取り付けた。

　やらなければならないこと。

　遠い日の約束を果たすこと。北の大地で二人で風になる。
　
　そして、彼女に
　自分の分身を生んでもらうこと・・・。
　自分がこの世に生まれ生きた証を彼女に託すこと。

　自分勝手でわがままなこの願いを眞鍋淳子が受け入れてくれるのかどうか。
　何の確証も根拠も、ない。
　彼女に会えるのがすらわからない。けれども、自分に残された時間はわずか
なのだという思いが、拓哉を駆り立てる。

　居てもたってもいられない無秩序な思いだけが、今の彼を突き動かしていた。